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鬱るんです
躁鬱病のITエンジニア「はまー」が心と体の模様を記した雑記帳。 大手IT企業で心身ともにぼろぼろになり退職した後、ほそぼそと働いたり事業を立ち上げようとして頓挫したり、作業所に通ったり障害者雇用で働いたりと紆余曲折したが、今は無職な毎日。

カテゴリー:メンタルヘルス

昨日の睡眠はちょっといまいちだった。寝付きはいつも通りよかったし、0:00頃目が覚めて眠れなくなって、0:30頃に追加眠剤をもらうところまではよかった。そこまでは昨日と同じだが、その後2:30に目が覚め、その後何回も中途覚醒を繰り返し、4:00過ぎにはもう眠れなくなって、起きてきた。熟睡感が少し足りない。

夜明け前の喫煙所でKさんと話をする。Kさんは自分自身が優秀なカウンセラーにカウンセリングを受けた経験があり、よく他人のことを観察していて、カウンセラーばりにいろいろなことを言ってくれる。彼女によると、私は「凝り性」「完璧主義」「こだわりが強い」「なにごとにも全力投球」ということで、それは自分でも自覚している。

彼女に言わせると、「凝り性」という面に関しては、私は「いい意味での凝り性」らしい。趣味に関しても、自分の興味の持った分野に関しては徹底的に追及する。それはいいんじゃないか、ということである。

だが「完璧主義」というのは、この病気になる人に共通していることだけど、気をつけないといけない。なんでも100%でないと気が済まなくて、100%を達成できないと、とたんに挫折感を感じてしまう。それがうつ病のきっかけになる。たとえ100%じゃなくても、0%ってわけでもないんだ、50%でも60%でもいいじゃないか、そう思えるようにならなきゃならないんだ。「もっといい加減になりなさい」彼女はカウンセラーにそう言われたそうだが、「いい加減」とはちゃらんぽらんというわけでなく、「『いい』加減」を知る、ということだそうだ。納得。「なにごとにも全力投球」というのも、それが悪く出るときは「『いい』加減」で適当に抑えなければいけない。私は遊びはいっぱいあるが、「あそび」はない。自動車のハンドルやブレーキの「あそび」に相当する部分がないのである。

その後、彼女に「あなたには『否定する心』がある」と言われたとき、それはどういうことかわからなかった。私が人と話しているとき、言葉の端々に「否定する心」が見え隠れするらしい。「否定する心」ってなんだろう?いろいろ説明してくれたけど、いまいち理解できなかった。「そんなに難しく考えなくていいよ」と言うが、気になる。何を「否定」する心なのか。「こだわり」が強いために、自分のこだわりと相反するものに対して無意識のうちに「否定」をしているのだろうか。今はわからないが、そういう自分への「気づき」が大事だと彼女は言う。ま、あせらないようにしよう。

昨日Hさんに「ストレッチは朝一番にはやらない方がいい。まだ筋肉が固すぎてよくない。ある程度、体が起きてきて自然にほぐれてからの方がいい」と言われたので、朝のストレッチはやめることにした。作業療法の日は9:30からエアロバイクを漕ぐので、その前にすることにしよう。その他の日は午前中に適当な時間にやろう。

朝食後、すこし頭がぼ~っとするのでヒーリングのCDをかけて横になる。やはり眠りが浅かったせいだろう。あまり調子がよくない。昨日まで上り調子だったからといって、ずっと良くなり続けるということはなく、やはり波があるようだ。今日は無理をしないようにしよう。

気がつくと、外に出てもいい時間を過ぎていたので、のろのろとオカリナを持って昨日のグランドへ行った。今日ははじめからベンチの端っこに座った。何を吹こうかな、と思ったすえ「眠れぬ夜」をとりあえず吹いてみた。今の自分にぴったりだ。何曲か吹いたところで、すぐに疲れてしまったので病棟に戻った。

今朝メールチェックをしたら、友人から「昨日の日記の、果物チームと野菜チームの東北版には不覚にも笑ってしまった」とある。一人でもうけてくれて幸いである。ところで、彼のメールを無断引用するが、

僕はこの間まで、「メールをもらうとすぐに返事をしないといけない」と思いがちでした。それでストレスが溜まることもありました。しかし、この間見たストレス解消系HP(というのかな)に、そういう考えはテクノストレスの原因の一つでもあると書いてあったので、そういう考えはやめるようにしています。

と書いてある。その傾向は私にもあって、メールをもらったらすぐに返事を書かなきゃ、と思っていた。それは、相手が返事を期待しているだろうというのもあるが、一日に来るメールの数が多いので、すぐにレスを返さないと後で忘れてしまいそうだったからである。だが、最近私はちょっとした技を開発した。技と言うほどのものでもないが、メールを見て、これは返事する必要があるな、と思うメールには、とりあえず「返信」(または「全員に返信」)ボタンを押し、メールの編集画面を開いて、そのままドラフト保存するのである。こうすれば、返信する必要のあるメールの書きかけがドラフトのメールボックスに入るので、すぐに返事を書かなくても、あとで暇なときにドラフトをチェックして、返信してないメールがあればそのときに返事を書けばいい。返事をし忘れることもない。

おなかの調子があまりよくない。少し腹が痛くなってきた。私は便秘と下痢を繰り返すので、いつものことなのだが、今日はちょっと痛い。看護婦に言うと、「今日は土曜日なので当直の医師しかいなく、10:30か11:00頃に回診にくるので、そのときに相談してください」とのことだ。それまで痛みが続くようだったら薬をもらおう。

ところで、毎晩その日の便通の回数を各自が表に記入するのだが、昨日の夜「18」と書いてある人がいてびっくりした。と思ったら「泊」という字だった。「この人は外泊してます」という印で、看護婦が記入したものだった。一日に18回もトイレに行くようであれば、トイレに住んだ方が手っ取り早い。と言うのは冗談だが、私の趣味の山登りの世界では、山でのトイレ問題が最近活発に行われている。山に残していいのは足跡と思い出だけ。排泄物もできるだけ持ち帰らないといけない。と言うわけでうちの山岳会でも携帯トイレを試しに購入してみた。が、誰か試した人はいるのだろうか?山ではいろいろなトラブルに遭遇したときの対処法を知っておかなくてならないので、私もいろいろ本を読んで勉強したが、「山で下痢になったら」というのはまだ見たことない。

今日の午前中はみんな休んでいるのか、ホールは閑散としている。私もあまり調子がよくないのでしばらく横になって休むが、11:00前にホールに行ってみると、だんだん人が集まってきた。EさんとMさんが卓球を始めた。その後Eさんが用事があるというので、私が代わってMさんと打ち合ったが、調子が悪いためかいつもよりかどうも反応が鈍く、動きもスローモーだ。Oさんが「私にも卓球教えて」と言ってきた。彼女が卓球をやっているのを見たことがないので、興味がないのだと思っていたが、そうでもないらしい。「経験は?」と聞くと、「温泉でちょっと」と言う。とりあえずちょっと打ち合ってみたが、確かに初心者らしく「ピンポン」のレベルである。これなら基本から教えやすい。少し基本を教えて打ち合うが、どうもこちらの反応が鈍く、いつものように相手が打ちやすい所になかなかボールを返すことができない。その後、数日前に入院したOさん(Oさんがいっぱい出てくるが全部別人である)が、「私もお相手願います」と言ってきたので相手するが、なんかその時点で私はへろへろだった。調子悪いときに無理しちゃいかんが、「教えて」と言われて「今、調子が悪いから」と言って断れないのも私の悪いところだ。一応Oさんに「経験は?」と聞くと、「以前、ここで」と言う。そう、彼女も出戻り組の一人だ。へろへろだったのでちゃんと教えてあげられなかった。

昨日、私の隣のベッドに入ったHさんが「商売でトラブって裁判中」と書いたが、それは私の勘違いで、彼の友人の話らしい。彼の友人もまたうつ病で、そういうきっかけだったという話だったのを私が誤解したのだ。彼自身はトラックの運転手をやっていて、あれも相当体にきつく、時間もめちゃくちゃな仕事だったので、自律神経がおかしくなってしまったらしい。トラックの運ちゃんをやる前は4年間自衛隊にいたそうだが、その訓練内容を聞いたら、ものすごく激しいものだった。「真夏の暑い中、長袖長ズボンにいろんな装備をつけて、70km歩かされた」と聞いたときは、「俺だったら死ぬな」と思ってしまった。

休んでいると、カラオケの音が聞こえてきた。今日は土曜日なので、昼からカラオケ大会なのだった。今日も別の病棟から若者向けのディスクを借りてきてるらしい。ちょっと調子悪いけど、カラオケくらいならできるかな?と思っていってみた。先週、尾崎豊の「I Love You」を歌ったあと、Kさんに「うまかったけど、ちょっと力んでたんじゃない?力抜けばもっとうまいと思うけど」と言われたので、リベンジでまたしても「I Love You」に挑戦。「力む」というのは私が何事に対してもやってしまう悪い癖だ。今回は力を抜いて、と思ったら逆に力が全く入らない。なんか体全体のコントロールを失っているみたいで、リズムもまともに取れないし、高音がぜんぜん出ない。普通、高音は張ることができなくても抜くことはできるのに、まともに抜くこともできない。なんか悔しくて、次に勢いのいい曲を、と思ってThe Blue Heartsの「Train Train」を歌ったところ、またしてもぜんぜんリズムに乗れず、しかもアンザッツをあてることもできず、声帯をもろにこする地声歌いになってしまい、喉がへろへろになってしまった。カラオケも今は無理だ、とあきらめて病室に戻って休んだ。

夕方、ベッドに横になりながら、やはり隣のベッドに横になっているHさんとお互いの話をした。ケースは違うが、2人とも家庭環境に何らかの問題を抱えている。この病棟の患者と話していると、家庭環境に問題がある人、トラウマを抱えている人、性格的に鬱などの病気になりやすい人ががほとんどである。特に家庭環境に問題を抱えている人は非常に多い。

Hさんは生活保護を受けているそうだ。生活保護を受けると、通院費も入院費も一切ただになるらしい。32条を申請すれば通院費が5%負担になるのは知っていたが、生活保護の場合は通院費も入院費もただになるとは知らなかった。それでS君が「生活保護を受けたい」とずっと言ってる理由がわかった。S君は、父親が全く病気のことを理解していない、そもそも病気と思ってなくて、うつ病をただの「怠け者」と思っており、「なんで入院なんかしてるんだ。病気のふりなんかしてないで働け」と言うらしい。入院費は父親がお金が出しているが、父親は病気と思ってない子供の入院費なんか払いたくない。S君も父親に負担をかけたくない。かと言って父親が病気を理解してくれてないので家にも帰りたくない。でも今の病状では働ける状態ではない。それで生活保護を受けたいと言ってるのだ。

「夕食の準備ができましたので皆さんホールにお集まりください」放送が入った。いつもなら腹が減ってるので飛んでいくのだが、なんだか妙に腰が重い。体を動かすのがひどくめんどうだ。なんとかホールまでのろのろと歩いていく。今日はずっと軽い鬱だ。心と体がちゃんとつながってない。卓球もカラオケもおかしかったのは、そのせいだ。昨日まで上り調子にあった波が、今度は下り坂に入ったのか。明日も鬱が続くのだろうか。夕食後、ヒーリングのCDをかけて、またベッドに横になる。

いつの間にか眠ってしまっていたらしい。夢を見ていたようだ。悪夢ではないが、後味の悪い夢だった。ホールに行ってみると喫煙所でまたいつものメンツが集まっているので、加わるが、なんかまた下ネタで盛り上がっている。なんでも、ある薬の副作用で胸が大きくなるらしく、男性でも乳房が出てきたり、女性でも妊娠していないのに母乳が出てくるとか、最初は薬の副作用の話だったのに、そういう話からエスカレートしていった。しゃべっていると、「いつもとしゃべり方が違うね」と言われた。まだなんか全体的にスローモーだ。心と体がちょっと疲れてた一日だった。

Kさんから森田療法の体験記を聞いた。「あるがままの自分を受け入れる」いろんな本に出てくるが、いまだに私は理解できていない。「遊びたくないときは寝ていろ、遊びたいときは遊べ」それはわかる。だが、「だから月曜日から金曜日はしんどくても会社に行け」それができないから病気ではないのか?「調子がいいからといって、夜遅くまで仕事をしてはいけない」これはわかる。「調子が悪いからといって、早退してはいけない。定時まで必ず仕事をしないといけない」そうなのか?それは「あるがままを受け入れる」に反するのではないのか?森田療法は有名だが、体験記を聞いても、やはりいまいち理解できない。

20:00になった。眠剤を服用する。今日は調子はよくなかったけどいいこともありました、と「いいこと探し」をしながら眠ることにしよう。

やった、ついに中途覚醒が1回まで減った。眠剤の効きを感じる。21:00の消灯後、0:30に目が覚めて1:00まで眠れなかったが、追加眠剤をもらって、その後4:00まで熟睡できた。眠りもけっこう深い。頭も比較的冴えている。いつのもように4:00に喫煙所に行くと、いつものメンツが集まっている。私が100円ショップで買ってきた肩たたきがみんなに好評で、Mちゃんが使っていた。「昨日それで足の裏たたいていたら、Kさんが『やだ~、もう使わない』って言ってたけど、Mちゃんは使ってるね」と言うと、「え~、もう使わない~」と言って放り出してしまった。

朝5時になるとポットが出る。ポットが出るとお湯が沸くまでポットの前でコーヒーを入れたカップを持ってじっと待つ。これも日課の一つだ。

昨日O嬢にマッサージをしたところ、「彼、うまいよ」といつの間にか評判になっていて、Kさんが「私もやってもらっていい?」と言うので、椅子に座った体勢でやってみる。お、彼もなかなか背中のあたりがこっている。「お客さん、こってますね~」と言いつつ、畳に移動してうつぶせに寝てもらって本格的にやってみる。非常に喜ばれた。みんなにやってあげるから、みんなにマッサージがうまくなってもらって、ぜひ自分にもやってほしい、と言うと「その頃には退院してるよ」とO嬢はのたまう。そうかもしれない。

そういえば、以前「丘で歌を歌うのやめてくれない?」と注意されたとき、「おもての通りまで聞こえるから」と言われたのだが、他の人にあとから聞いたら、単に歌声がうるさいというだけでなく、海風にあおられて、歌声でなくて変な人が唸っているように聞こえていたらしいのだ。「ますますおかしい人ばっか入ってるところだと思われちゃうからさ」うむ、確かにそうだ。「歌うんだったら、裏のグランドの方だったら迷惑にならないから」そう言われて、一度行ってみようと思っていたのだが、台風の影響で外に出られなかったし、昨日は暑くて外に出る気がしなかったので、まだ行ったことはなかった。

今朝はオカリナを吹きに行こうとして、ふと思い立ってそのグランドに行ってみた。グランドといっても土ではなく一面芝生で、丸太でできたベンチやシーソー、ちょっとした高台みたいなところもある。しかも全面的に山の影になって涼しい。高台に上ってオカリナを吹く。心地よい風が頬をなでていく。ああ、気持ちいい。ここも気に入った。丘の方が海がきれいに見えるので眺めはいいが、ここも緑に囲まれて、山好きの私としてはとても癒される。これからはここでオカリナを吹こう。

吹いているうちに、だんだん日向が射してきて、暑いので高台から降りてベンチで吹く。が、どんどん日向が寄ってくるので、少しずつ逃げるようにベンチの座る位置をずらしていく。が、とうとう完全に日向になってしまったので、あきらめて帰ってきた。8:10までが勝負だ。と言ってもこれからだんだん日が短くなってくるので、日陰で休める時間は増えていくだろう。

金曜日なので本来なら午前中は作業療法で、自転車を漕ぎたかったのだが、今日は作業棟が休みなのでできない。作業棟の職員の夏休みだそうだ。みんな午前中は暇をもてあましていて、結局いつものごとく卓球が始まる。私が見物してると「コーチ、教えてくださ~い」と言ってきたりする。相手をしたり、横で見たりしていろいろアドバイスをする。初心者でも基本から教えると、短期間でとてもうまくなる。

卓球をやってると、山岳会の仲間のEちゃんが面会に来てくれた。会のオリジナルTシャツを作ろう、と私が企画して進めている途中だったのだが、入院してしまったため、彼女が私のあとを引き継いでくれた。今日は面会がてら、そのTシャツができあがったので持ってきてくれたのだ。花も持ってきてくれたので、看護婦さんから花瓶を借りて部屋に飾ると、病室が明るい雰囲気になった。精神科独特の、廊下から窓越しに丸見えでベッドの間にカーテンもない殺風景の病室が華やかになった。

Eちゃんとは久しぶりにいろいろと話をして楽しかった。彼女は、うちの山岳会の中でも一番最初に私が自分の病気をうちあけた貴重な「友達」であり、しかもうつ病についての理解があった。「励ましてはいけない」ということもちゃんと知っていた。昼食の時間になったので、その間待ってもらい、また話を再開するが、13:00になって入浴タイムになり、われわれが一番最初の番であとがつかえていたので、彼女はそこで帰っていった。入浴後にシャツを取り替えるので、持ってきてもらったTシャツをさっそく着てみた。モンベルのウィックロンでできたTシャツである。ウィックロンは登山用の速乾性素材の一つだが、実は私はウィックロンは今まで持ってなかった。ダクロンより少し厚めかな。でも乾きはいいと聞く。今日これで卓球をやって汗をかいた後、乾き具合を試してみることにしよう。喫煙所でたばこを吸ってると、Mちゃんが「そのTシャツかわいいね」と言ってくれた。やった、受けがいいぞ。

入院が4回目だというHさんと話をしていると、さすがにいろいろと詳しい。ここの看護婦はずっとナースステーションにいて暇そうに見えると思っていたが、実は事細かに患者の様子を観察していて、それをすべて医師に報告しているらしい。たとえば「誰々が何時にカップラーメンを食べてた」とか、そんなことまで記録しているらしい。決して暇なわけではなかったのだ。精神科の患者の状態は、検査などでわかるものではない。日々の言動や表情などが、患者の状態を判断するための重要なファクターなのだ。ここのナースたちは、日々それらを観察し、医師に報告するのが一番の役目らしい。

風呂からあがった後、なんだか急に肩が凝ってきた。めちゃめちゃ凝ってきた。Hさんがマッサージしてくれたが、これがめちゃめちゃうまい。私なんかよりもずっとうまくて、思わず「うぅ~」と甲骨、いや恍惚の表情を浮かべて唸ってしまう。聞けば彼もかなりの凝り性で、やはりマッサージに通ううちに自分で覚えてしまったらしい。「なんで風呂に入って血行がよくなったのに肩が凝るんだろう」と言ったら、彼によると、凝りがひどいと普段はもう麻痺してしまっているのが、血行がよくなることによって却って表面化してしまうらしい。これからは彼と切磋琢磨して、さらにハイレベルなマッサージャーを目指すことにしよう。

荷物が届いているというので取りに行く。内容はわかっていて、会社に送付してもらっている購読雑誌だ。「私宛ての雑誌がたまっていると思うけど、暇だから送って」と連絡しておいたのだ。取りに行ってみると、けっこう重い。「日経オープンシステム」3冊、「日経コンピュータ」4冊、「日経バイト」2冊の計9冊が入っていた。そりゃ重いわ。これからは暇なときにはこれらを斜め読みしようっと。

実習生の女子大生に、何かクラブかサークルはやってるの?と聞くと、なんとジャズサークルでアルトサックスを吹いているらしい。ビッグバンドではなく、コード進行だけ決めておいてあとはインプロビゼーションで音楽を作っていく本格派のジャズだ。かっちょい~。私は数年前に、アメリカのヴォーカルアンサンブルグループが来日したときに受けた講習会でインプロビゼーションのレッスンをしたが、普段の譜面に沿った音楽とは離れて、インスピレーションで、即興で作る音楽というのもとても楽しい。その講習会では他にも、モンゴルの伝統芸能で、倍音を利用して同時に2つの音を出す「ホーミー」のやり方を教えてくれた。そのときはうまくできなかったが、練習しているうちに今では結構倍音が鳴るようになってきた。よく響くところでホーミーをやると自分でいつの間にか恍惚状態に入ってしまう。

夕方、今朝のグランドに行って今度は歌を歌う。シューベルトの「美しき水車小屋の娘」と、Tちゃんに持ってきてもらった歌集を持っていった。「美しき水車小屋の娘」は私の好きな歌曲集の一つで、単純でなじみやすいメロディーの繰り返しで、とても素直でいいな、と思っている。同じ三大歌曲集でも「冬の旅」や「白鳥の歌」はちょっとこむずかしい印象がある。ところで、この歌集は20曲から成る一連の物語になっており、ある青年が「美しき水車小屋の娘」に恋をし、その思いを歌っていくのだが、結末は結局うまくGETできないというものだ。その歌詞の中で、「彼女が緑色のリボンをつけているので、あの娘は緑色が好きに違いない。自分も緑色の服を身につけよう」という展開になっていくのだが、16番が「好きな色」という曲名で緑色のことを歌っているのに対し、転機となる17番では「嫌いな色」という曲名で緑色のことを歌っている。「好きな色」が短調で、「嫌いな色」が長調で書かれているのがおもしろいな、と思っている。

夕食後の喫煙所のおしゃべりで、看護婦のTさんが入ってきて延々と恋愛論をしていた。彼女曰く、「女は絶対に男におごらせるべきだ。女におごらない男はダメだ」と言っていたが、世の中にはそう思ってる女性がやっぱ多いのかなぁ。少なくとも私の友達の女性は「おごってくれたらラッキー」とは思ってても「おごらせて当然」とまで思っている人は少ないような気がする。あんまり熱く恋愛論を語るので、もう彼女いない歴が数年に及ぶ私は「どうしたら彼女ができますか」と聞いてみた。いろいろ話をすると「う~ん、あなたは『押しが弱い』のと『誰にでも優しいいい人』で終わっちゃうタイプだね。誰にでも優しくしちゃダメだよ」などと言う。「誰にでも優しくしちゃダメ」って言われてもなぁ。

連絡会の後、いつもは木曜日にする冷蔵庫の整理をみんなでする。昨日やるはずだったのに、看護婦も忘れていたらしい。この一週間で退院した人が残していったもの、期限切れのものはどんどん捨てていく。冷蔵庫はブラックホール化しがちで、奥にはどんな得体の知れないものが入っているかわからない、というところも多いと思うが、毎週これをやってるおかげで、冷蔵庫はいつもきれいに整頓されている。一般家庭でも毎週一回冷蔵庫の整理をすればいいんじゃないだろうか。

喫煙所のテーブルに、Oさんの差し入れで梨が切ってあったのでありがたくいただく。私が古いなぞなぞを出した。

「野菜チームと果物チームが野球の試合をしました。野菜チーム先攻で、1-0で野菜チームがリードしています。9回裏ツーアウトランナーなし、そこで果物チームのバッターがホームランを打ったら、果物チームが勝ってしまいました。なぜでしょう」

割と有名なので、みんな答えを知っているかと思ったら誰も知らなかった。答えは「ランナー梨」だったから、である。

実はこの「東北版」というのもあって、それは「果物チームが先攻で1-0でリードし、9回裏野菜チームの攻撃でツーアウトランナーなす」というものなのだが…。

この間たばこをあげた、ほとんどしゃべらない女性が病室の外から「すみません」と声をかけてきた。「お菓子ないですか?」と言う。私は間食をしないのでお菓子なんぞは一切持ってないので「持ってないんです。ごめんね」と言うと「あ、いいです」と言って行ってしまった。私の性格としては、「誰か他に持ってないか聞いてみましょうか」と言ってついて行きたいところだが、この間、看護婦に「関わらないで」と言われたので、そのまま見送る。他の人に聞いたところ、けっこう他の人にも「たばこくれませんか」とか言ってるらしい。他人にしゃべるときは物をねだるときだけ。みんなもできるだけ関わらないようにしているらしい。やはり彼女は甘やかしてはいけないタイプなのだろうか。

20:00になった。薬を飲んで就寝準備。今日はいっぱい書いてしまった。

昨日もよく眠れた。昨日とほぼ同じパターン。0:00頃目が覚めたが、眠れそうなのでもう一度寝る。2:00頃また目が覚めて、今度は眠れなかったので、2:30に追加眠剤をもらって飲み、そのまま 5:00まで熟睡。鬱が入らなかった日はかなりちゃんと眠れるようになってきた。

そういえば、昨日の就寝前に、朝たばこをあげた女性が私の部屋の前で、私に向かって「すみません」と声をかけている。「どうしたんですか?」と尋ねると、「たばこ一本くれませんか」と言う。看護婦は「関わり合いになるな」というようなことを言っていたが、私にはそうはできない。「いいっすよ」一本渡して「ライターはありますか?」と聞くと「大丈夫です」そう言って行ってしまった。朝は「煙草忘れちゃった」と一人でつぶやいただけだったが、今回は確実に私に話しかけてきた。他の人と話すことはまずないのに。心を開いてくれるのは嬉しいし、彼女の病気がそれで少しでもよくなるならいいのだが、かえって悪化したり、看護婦の言う「巻き込まれる」事態になってしまうとどうしようかと思う。 

朝の服薬。毎回服薬時は、みんなコップを持って一列に並び、「○○です」と自分の名前を言って薬を受け取る。私の番になったとき、たまには看護婦にもぼけてみようと思って「三波春夫でございます」と言うと、寒い顔をしていた。次は別の看護婦のときにリベンジしてみよう。

朝食後、台風が過ぎ去ってようやく晴れたので、洗濯をする。洗濯機がまわっている間に散歩に行って、いつもの丘でオカリナを吹く。が、照りつける太陽と無風状態に数分で汗びっしょりになり、早々に引き上げる。

たばこを吸ったりこれを書いているうちに、洗濯が終わったようだ。さっそく中庭に干しに行く。今日はいい天気だ。よく乾くことだろう。下の病棟の若者が3人上半身裸でひなたぼっこしている。もちろんみんな男である。ところで昔から「ひなたぼっこ」「ぼっこ」って何だろう?というのが私の3大疑問のうちの一つであるが、いまだにわからない。若者の一人はこの間オカリナに拍手を送ってくれた彼だ。「今日は洗濯機が順番待ちなんですよ」と言っているが、それはこっちも同じで、私が「洗濯終わったかな?」と思って見に行ってみたときには、私の洗濯物はかごに出されて次の人のが回っていた。洗濯物を干していると、靴下が片方ない。どうして靴下は片方ずつなくなるのか。その答えは、両方なくなったら、なくなったこと自体に気がつかないからである。私は会社に入社した頃、スーツ用のいわゆる「サラリーマン靴下」を大量に全部同じ製品でそろえた。これなら片方破れたりなくなったりしても、残りで使い回せるからである。

午前中は体育館レク。今日は前半はドッジボール、後半はバドミントン。休憩中に飲む一杯の冷たいお茶が気持ちいい。体育館の床に大の字に寝そべり、目を閉じ、ドイツの精神科医シュルツが考案した「自律訓練法」を行って神経を休める。無理をしない程度に、ちょっとやっては疲れたら休み、また少しやっては疲れたら休む。仕事もそういうペースでやらせてくれればいいのに。

うちの病棟に、福祉系の大学からケースワーカーの実習生が来ている。今日と明日いるそうだ。むむ「ぢょしだいせい」である。みんなで取り囲んで質問責め、ではないが、いろいろとお話をする。

私の隣のベッドに新しい患者が入ってきた。その向こうのベッドのKさんが「あれ、Hさんじゃないですか」と言うと「また入ることになりました」と答えた。4回目の入院らしい。歴史は繰り返す、じゃなかった歴史はぶり返す、でもない、やはりこの病気はぶり返す人が多いのか。

Hさんは自分で商売を起こして、何人かの従業員を雇って小さな商社をやっていたらしい。が、取引先とトラブルを起こし、裁判で訴えられ、今でも裁判は続いてるらしい。そのストレスから鬱になり、従業員にはみんなやめてもらって、細々と商売をしながら入退院を繰り返している、という生活らしい。生活保護を受けているが、なんとか切りつめればやっていける、という感じらしい。

今日の午後は、木曜日なので普通はレク活動なのだが、今日はなぜかなかった。みんな暇をもてあまして、結局「卓球でもしますか」ということで、卓球台をセッティングしていると、Mちゃん(今までTさんと書いていたリストカットの女の子)が「私も卓球やりたい」と言うので、軽く相手をしてあげながら教えてあげた。ほとんどやったことないのに、結構じょうずである。彼女は体力がないので、あまり長くはできなかったが、初心者は変な癖がなく、教えたことをそのまま忠実にやってくれるので、少しの時間でけっこう上達した。その後、S君と勝負したが、いつも11点ゲームの1セットマッチの短縮版でやってるのを、今回は21点ゲームの3セットマッチ、正規のルールでやった。結果は2-1で私が勝ったが、さすがに久々にフルセットを続けてやると疲れた。

私がMちゃんと相手をしているのを見て、アルコール依存症で入院中の、60歳くらいのTさんが「私にも彼女に教えてあげたように教えてください」と言ってきたので、相手をした。Mちゃんと同じく、ほとんど初心者の人で、打ちやすい球を返しながら、教えた通りに打ってもらうとどんどん上達していった。彼はアルコール依存症の影響でいつも手先がふるえているが、卓球をやっているときは全くふるえていなかった。

その後、実習生の女子大生が同じように教えてほしいというので相手をすると、彼女は「ちょっとやったことがある」らしく、ボールへの反応はいいのだが、変な癖がついていて、なかなか教えた通りにいかない。手首を変にひねる癖があるのだ。相手が打つ瞬間ごとに「まっすぐ」と声をかけていると、しだいに慣れてきていいボールが返ってくるようになったが、少しラリーが続くとすぐに元の癖が出てしまうようだ。まったくの初心者の方が教えやすい。

分裂病のSさんは、普段は精神病患者ばかりで集団生活をしている施設に暮らしているらしい。そういう施設があるとは知らなかった。入院とは違い、普通に家賃を払って普通に暮らしている。が、管理人がいろいろ面倒を見てくれたり、かかりつけのドクターが往診をしてくれることもあるらしい。普段はみんなそのドクターの病院に通院しているのだが、緊急の場合には来てくれる、ということだ。最近では普通の医者でも往診をしてくれるのは減っているのかもしれないが、そういうところもあるということをはじめて知った。

夕方、入院時にいろいろ検査した結果を教えてもらった。レントゲン、CTなどは問題なし。血液検査では中性脂肪が「かなり」高いそうだ。中性脂肪が高いのはわかっているが、「かなり」と言われるとちょっとびびった。私は見た目は割と筋肉質で、少し腹に脂肪がついてるかな、という感じなのだが、それにしては体脂肪率がかなり高い。表面についているのでなければ、中についているのだろう。脂肪肝かもしれない。幸い、肝機能には今のところ異常はないが、これから注意してください、と言われた。内臓の脂肪は一番落としにくい。せっせと有酸素運動に励むことにしよう。ここにいる限り食事は栄養のバランスのとれたものをとっているが、退院したらまた外食中心の生活になる。そのときは脂肪分をできるだけとらないように気をつけねば。

夕食後のおしゃべりで、なぜか女性陣が下ネタ話で盛り上がっている。最初は男性陣もおもしろがって聞いてたり突っ込んだりしてたのが、だんだん男性陣もついていけなくなるほどエスカレートしていった。その内容は…、とてもここには書けない。

夜、オセロをやっているO嬢が肩がこっているというのでマッサージをしてあげる。うむ、結構こっていて、つぼがぐりぐりとはっきりわかる。私自身、ものすごく首と肩がこるので、以前は鍼灸院に通って針治療を受けたり、本格的なマッサージを受けてたりした。今でもクイックマッサージによく行く。おかげで「どうやれば気持ちいい」というのがわかるようになったので、マッサージがうまくなって、人にやってあげると喜ばれる。が、自分で自分にできないのが残念だ。O嬢はオセロをやりながら「う~」「きく~」とか言って気持ち良さそうにしていたが、やっているうちにブラのホックを外してしまった。いや、もちろんわざとじゃない。わざとじゃないってば。

今夜の夜勤は卓球経験者の看護士Nさん。20:00の服薬まで時間が少し空いたので、卓球の相手をしてもらうが、ぼろ負けしてしまった。うむ、彼は手強い。

20:00になった。就寝前の眠剤を飲んで、これから寝る準備をしよう。今日隣に入ったHさんはいびきをかくのかな?一応耳栓をつけて寝ることにしよう…。

耳栓の勝利だ。よく眠れた。と言っても、昨日は2:30から起きていたし、けっこう運動もして疲れていたのに昼間寝ないようにしたためでもあるだろうが、とにかくよく眠れた。とは言え、中途覚醒がなかったわけではない。21:00消灯後、0:00に目が覚めるが、また眠れそうだったのでそのまま寝た。次は2:00に目が覚めて、今度は寝ようとしても眠れなくなったので、2:30に追加眠剤をもらう。すると4:00までぐっすり眠れた。眠れなかった30分を除けば、トータルで6時間半は寝たことになるし、眠りも深く熟睡感があった。4:00から早起き組でいつものひそひそ話。

暖かいコーヒーを飲みながらTさんとお互いのことについて話す。「自分の苦しみをずっと誰にも言えなかった。家族にも言えなかった。大量服薬をして部屋中に嘔吐したとき、自分が精神を病んでいることをはじめて家族が知った」そう彼女は言った。私の場合、鬱がひどくて3日間無断欠勤し、会社からの「大丈夫ですか、連絡ください」という留守電にも応答できなかったとき、会社から実家へ連絡が行き、父親が「あの子は絶対に無断欠勤なんかするはずない。きっと事件に巻き込まれたに違いない」と思って警察に捜索願を出し、部屋に警官が入ってきて、はじめて親が知ることになった。

朝、状態が安定して気持ちがいいので、お休みにしていたストレッチを行う。すると、一度も話をしたことのないUさんが「あら、体固いわね~」と話しかけてきた。ストレッチのこととか、「こういう腹筋運動もありますよ」とか教えてあげて(それは足上げ腹筋で、足で1から10の数字を書くというものだが、かなりつらい)、いろいろ話をした。彼女はいつも不機嫌そうな表情で、挨拶もしなければ、誰ともしゃべっているところをみたことがない。私には心を開いてくれたようだ。

水曜日の朝はシーツ交換。ついこの間やったばかり、という気がする。一日は長いのに、どうして一週間は短いのだろう。手早くシーツや枕カバー、包布、タオルケットを交換する。きれいなシーツは気持ちがいい。

喫煙所で煙草を吸っていると、いつも一人で来て一人で吸って一人で帰っていく女性がきた。名前は知らないが、顔に全く表情がなく、いつも同じ服を着ていて、そして一言もしゃべらない。一つ一つの動作がものすごく遅い。どういう病気か知らないが、みんなどう扱っていいのかわからない、という人だった。その人がやってきて椅子に座り、しばらくしてからぽつんと言った。「部屋に煙草忘れちゃった」彼女が喋るのをはじめて聞いた。そのとき喫煙所には私しかいなく、「これあげますよ」と言って一本差し出すと「ありがとう」と言った。うん、コミュニケーションはできるようだ。彼女が履いていたハムスターの絵柄のスリッパを指して「スリッパかわいいですね」と言ったら彼女は少しほほえんだかのように見えた。「ハムスター好きなんですか?」と尋ねたら、だまってうなずき、その後彼女は部屋へ戻っていった。

さっき煙草をあげた女性が看護婦さんに怒られて泣いている。しばらく見ていたが、彼女は甘やかしてはいけないのだろうか。さっき煙草をあげたのもよくなかったのだろうか。後からその看護婦に聞いてみた。「さっき彼女が煙草を忘れたと言ったので一本あげたんですが、よくなかったでしょうか」「患者同士でものをあげたり貸し借りするのはトラブルの元になるので、できるだけやめてください」「いや、そういうことじゃなくて、私もいろいろ本で読んだんですが、病気によっては厳しく接した方がよかったり優しくした方がよかったりするそうじゃないですか」「本に書いてあるのはあくまでも理想論です」「いや、だから看護婦さんに彼女の場合はどうすればいいか聞いてるんです」「できるだけ他の患者さんとは関わらないでください。そうやって巻き込まれて自分が調子を崩した例をもうたくさん見てますので」なに、巻き込まれる。そういうことがあるのか。「でも、関わるなと言われても、ここでは集団生活だから、自然とコミュニティが発生するじゃないですか。どうしても関わらざるを得ないんですけど」「でも、あなたも自分の病気を治しに来ているんでしょう。自分の病気を治すことだけ考えてください」「じゃあ、彼女は無視していいんですか」「それでいいです。自分を大事にしてください」看護婦の言うことはわかるが、何か釈然としないものを感じる。

9:00からは環境整備で、身の周りを雑巾がけ。Yさんが外泊でいないので、彼のベッドの周りもついでにやってしまった。次に窓拭き。高い所に手が届かないが、踏み台になる椅子などがないので、窓枠に上ってアウトサイドエッジをきかせながらバランスを取り、窓を拭く。こんなところでクライミングの技術が役に立つとは思わなかった。

いびきのNさんが別室に移っていった。入院するときから看護婦に「自分はいびきがうるさいんで、周りの人に迷惑かけると思います」と言っていたので、4人部屋に入ることになっていたらしい。昨日Hさんが退院したので、それまで暫定でうちの6人部屋に入ってたそうだ。せっかく耳栓を用意したが、これはこれからも無駄にならないだろう。

昼食後、喫煙所で「不安」が話題になった。なぜ人は不安を感じるのだろう。誰にだって不安はある。しかし、ここにいる人達すべてに共通した不安は「社会復帰」ができるか、だ。昨日退院したHさんも「まず仕事を探さないといけないんだが、この病歴ではどうだろうなあ」と言っていたし、生活保護を受けないと生きていけない人もいる。幸い私の場合はまだ戻る会社がある。だが、無事戻れたとしても、また同じことを繰り返さないか、それもここにいる皆に共通した不安だ。

Kさんが詩を紹介してくれた。あいだみつをの詩だが、彼が禅師の元で悟りを得たときの詩だそうだ。

 昨日は過ぎてしまってもうない
 明日はきてみなければわからない
 たいせつなことは今日只今の自分自身がどう生きるかとういうことである

それから、私が「いがらしみきおの『ぼのぼの』って、けっこう哲学的だよね」と言うと、賛同者がいて、彼が一番印象的だったセリフは、ぼのぼのがフェネックギツネに何か言われて、「だって後で困るといけないから」と答えたのに対してフェネックギツネが言った、

「後で困ればいいことは、後で困ればいいんだよ。後で困ればいいことを、なんで今困るんだよ」

というものだそうだ。これは確かに私も読んだ記憶があり、そのときなるほどと感じたのを思い出した。読んだのはまだ学生の頃だっただろうか。我々には「後のことを困る」余裕はない。とにかく「今」をなんとかしないといけないのだ。

WindowsCEのメールマガジン「WindowsCE FAN」が来た。まさにこの日記を書いているハンドヘルドPC「シグマリオン」の後継機種が9月7日に発売されるらしい。ゼロハリバートンのかっちょいいボディは踏襲されつつ、CPUは高速化され、メモリも32MBから48MBに増え、次世代携帯電話のFOMAを接続できる端子もついているという。うぅ、とてもほしくなってきた。

夕食前のだんらんで、今度はドラえもんやらのアニメの話になった。アルコール依存症の中年女性Kさんは「私はアル中から鬱になったときに、自分は人間ではないんじゃないかと思った。私は妖怪人間ベラだと思った」なんて話していた。「早く人間になりたい」それはなんだか今の自分たちの心境に近いような気がする。彼らは指が3本しかなかった。今ではもう再放送されないだろう。

夜は定番の卓球大会。私が少しずつ初心者に教えているため、みんなだんだんうまくなってきた。私と同じく元卓球部のS君は、初心者相手にもサーブに回転をかけたり厳しいコースをついたりするのでみなぶーぶー言ってるが、私は相手のレベルにあわせてできるだけ打ちやすい球を返しながら、「この人はこのくらいまでは大丈夫だな」と思うと、左右や前後に振ったりスピードをあげたりして、相手も楽しんでもらえるようにしている。自分が教えてあげて上達していくのを見るのは楽しい。

20:00になったので卓球はおしまい。いつものように薬を飲んで就寝準備。今日は大いびきの主もいないことだし、安眠できますように。

昨日、かなり大きな鬱が入ったため、眠れるか心配だったが、案の定睡眠障害はひどくなった。21:00の消灯後、いったんは寝たが23:00頃だろうか?目が覚め、その時はそのまま眠れたが、0:00頃目が覚め、眠れなくなったので0:30頃追加眠剤をもらって飲んだ。それでいったんは眠ったものの、2:30にまた目が覚め、かなり目がさえていて眠れそうになかったので、2回目の眠剤をもらった。喫煙所で一服しようとすると、何人か先客がいる。昨日他の看護婦と一緒に騒いでいた看護士さんががいて「昨日はご迷惑をおかけしました」と謝ってくれた。「あの後すごい鬱が来たんですよ」そう言うと「あれでパワーを使い果たしてしまったのかもしれませんね」と看護士は言った。

2回目の眠剤は効かなかった。眠気は来ず、じっと横になって夜が明けるのを待つ。この時間帯が一番つらい。普段は気にならない他の人のいびきが気になる。私の部屋はいびきがすごいのだ。4:00頃、ホールに行って煙草を吸いながらぼ~っとする。やたら口が渇く。多分、薬の副作用だろう。他にも薬の副作用で、ろれつがまわらなくなったり、手が震えたりする人もいる。

5:00になった。ポットが準備されたので、コーヒーを入れる準備をしてお湯が沸くのを待つ。昨日買ったビン入りのコーヒーフレッシュを開けたら、栓抜きでないと開けられないキャップがついていた。看護士にお願いして栓抜きを借り、無事コーヒーを飲む。朝一番の一杯はうまい。

夜が明けるまでTさんやS君と話をしていた。二人とも昨日は落ちていたらしい。Tさんはまたリスカをやってしまったそうだ。今度はヘアピンで。「それも取り上げられちゃった」寂しそうな目で彼女はつぶやく。S君は同居しているお兄さんが、病気のことを全く理解してくれていなく、電話で「早く退院して働け」と言われてから落ちたらしい。理解のない人と一緒に暮らすのでは絶対によくならない。「退院しても、兄とは一緒に住みたくない」S君は言うが、私もその方がいいと思う。

ずっと頭はぼんやりしているのに、こういう日記は書けるというのは不思議なものだ。頭の中に浮かんだことが、勝手に指が動いて文字になる。ネット族の習性というものなのか。

ストレッチも今日は全くやる気が起こらない。ラジオ体操をのろのろやる。

朝食はほとんど食べられなかった。昨日の夕食もほとんど食べてないのに、ぜんぜん空腹感がない。何を食べても味がしない。

調子が悪い。ベッドに横になってヒーリングのCDを聴きながら休む。目を閉じていると、何も見えてないはずの視界の右端からいきなりYさんが現れて手を伸ばしてきた。びっくりして目を開ける。いつもと何も変わりのない病室が見える。あれは幻覚だったのか。調子が悪い。またじっと横になる。

少し調子があがってきたので、暖かいコーヒーを入れ、喫煙所に行く。コーヒーを飲みながら話をしていると、しだいに調子が戻ってきた。そのうちに作業療法の時間が迫ってきたので準備をする。バンダナを頭に巻き、タオルを用意し、昨日買った粉末のVAAMをペットボトルに溶かす。畳で入念にストレッチを行い、作業棟へ。

とりあえずエアロバイクにまたがって「体力測定」コースで漕ぐ。なんだか表示されている心拍数が低いような気がする。漕ぎながら作業療法士にそう言うと、「そのマシンだけセンサーがなんかおかしいようなんですよ。奥にあるマシンなら新しいので、そっちの方がいいかもしれません」とのこと。やり始めてしまったものはしかたがない。そのマシンで体力測定を行った結果、「10段階中の10。非常に優れている」おいおい、そんなはずはないだろ。今までどれだけトレーニングをさぼっていたと思ってるんだ。やはりこのマシンはおかしいらしい。20分ほど休んでから、奥にある新しいマシンでもう一度試してみることにする。お、私が通っていたジムにあったのと同じ機種だ。これなら以前と比較しやすい。さっそく体力測定コースで漕ぐ。結果はなんと「6段階中の1。非常に劣る」がーん、なんじゃそりゃあ。そこまで体力は落ちてるのか?やはりさっき漕いだばかりなので息があがってるのか、本当にそこまで落ちてるのか。プリントアウトされた結果を見ると、評価値72W。むむ、今から一年くらい前は150Wだったのに。

この作業棟、昨日は気がつかなかったが、他にもいろいろなものがある。マッサージチェアもあれば、ギターもある。体脂肪計もあるのでこれから最初に測定しよう。そうそう、カルテを作るんだった。すっかり忘れていた。病棟に戻ってきて、ハンドヘルドPCに付属のPocket Excelでさっそくカルテを作り、今日の分を記入する。

昨日は調子が悪かったことだし、今日はこれくらいで終わりにする。無理は禁物だ。病棟に戻ると看護婦さんに呼びとめられた。今日の早朝に、昨日アトピーが少しひどくなったという話を看護士に話しておいたら、婦人科の先生が皮膚科もみてくれるというので、話をしておいてもらうことになっていたのだが、今まで皮膚科に通院していたのであれば、できればそちらに行ってほしいということだ。まあ、今日になっておさまったし、外出か外泊のついでにでも行くことにしよう。

部屋に戻ると、先週Kさんが退院して空になっていたベッドに新しい患者さんが入ってきている。挨拶してからの彼の最初の言葉が「私、いびきかくんです。すみません」おいおい、最初の一言がそれかよ。と言うことは、相当すごいいびきなのだろうか。やだなあ、ただでさえ睡眠障害なのに、これで眠れなかったら入院している意味が全くない。とりあえず今夜はどんな感じか様子見だ。もしひどいようだったら、耳栓でも用意しよう。外出すると疲れるし、しばらくはあまり外に出たくないので、誰かに宅配便ででも送ってもらうことにしようかな。

この新しく入ったNさん、周りに寝ている人がいるというのにでかい声でしゃべりかけてくる。単にそういう性格なのか。前にいたKさんがすごくおとなしい人だったし、病室の他の人もおとなしい人ばかりなので、ちょっとこれから先が心配だ。

ホールに行くと、何かビデオを見ているようだ。少年が更正していくドラマらしい。私も今度何かビデオを持って行こうかな。いっこく堂が好きで、ライブのDVDを4本持っていると以前Eさんに話したら、見たいと言ってたので今度ダビングして持ってこよう。もうすぐ昼食の時間だ。昨日の夕食も今朝の朝食もほとんど食べられなかったが、ようやく食欲が出てきた。

Nさんは閉鎖病棟から移ってきたらしい。話を聞いていると、やはり閉鎖の方が制限がはるかに厳しい。所持品はすべてチェックされ、危ないものはすべて取り上げられる。ライターを持ってないので貸して、と私に言ったくらいだ。こちらはそこまではやらない。自己申告か、何かやらかしたときに取り上げられる。私は最初に「携帯電話は持ってますか?」と聞かれたときに、正直に「はい」と答えてしまったために取り上げられてしまったが、隠れて使っている人はたくさんいる。こちらでは入浴は週3回だが、閉鎖病棟では2回らしい。これはなぜなんだろうか。病棟外に出るのも制限されている。うちは開放病棟だから、一時間以内なら病院の敷地内のどこにでも一人で行っていい。だが閉鎖病棟では、外に出られるのは週2回、30分以内、2人の監視つきらしい。「でも設備はいいんですよ」とNさんは言う。「なんせ扉が二重ロックですから」そりゃ「厳重」って言うんだよ。

このNさん、ちょっとやっかいなことがわかってきた。とにかく話しかけてくるのである。さっきも注意したのに、寝ている人がいるにもかかわらず、また話しかけてくる。私も静かに本を読みたいと思って本を広げたところなのに、そんなことおかまいなしに話しかけてくる。無視するのもなんだし、答えて喋ってると寝ている人に迷惑だ。ホールに行って本を読むことにしたが、ホールはテレビがついてたり、みんながおしゃべりしていて、やっぱり集中できない。だめもとで耳栓が売ってないか売店に行ってみたら、ちゃんと売っていた。「けっこう売れるんですよ」と売店のおばちゃんは言う。他人のいびきで悩まされている人は結構いるってことだ。耳栓を試してみたが、結構具合がいい。これで安眠できるかな。

しばらくして部屋に戻てみると、Nさん自身が寝ている。ほっと一息、と思ったのも束の間。彼のいびきである。予想どおりすさまじい。さっそく耳栓の出番だ~。使用感としては、完全に聞こえなくなるってことはないが、まあ緩和されるかな。しかし低い周波数の音波が重低音のように響いてくる。

みんな今日は暇らしく、喫煙所に大勢集まって延々と話をしていた。なぜか駄菓子の話とか、昔遊んだ遊びとか、「これ知ってる?」「あ~、あったあった」という会話で盛り上がった。年代は多少幅があるものの、子供の頃の娯楽はそんなに変わらないらしい。もっとも、今の子供はどうか知らないが。

夕食後も喫煙所でおしゃべりの続き。薬の副作用でろれつの回らなくなったKさんが必死に早口言葉の訓練をしている。「ブスバスガイドバスガス爆発」けっこうみんな言えてない。「看護婦さんて参勤交代なんだっけ」S君がおおぼけをかます。それを言うなら「三交代」だよ。江戸時代の大名行列じゃねーんだから。たわいのないお喋りは続き、夜は更けていく。

20:00 眠剤を飲んで就寝準備。今日入ったNさんと新兵器の耳栓、どちらが勝つだろうか。